2004年 12月 20日
ブルックナー:交響曲第5番/アーノンクール指揮(SACD) |
何だか1作ごとに丸くなってきているような気がする昨今のアーノンクール。特にBMG移籍後は(録音スタッフは変わっていないのに)、暴力的なアクセントや、レガートとスタッカートの恣意的な強調や入れ替え、極端な速テンポや遅テンポといった彼の個性がかなり薄まってきました。刺激的、というよりはむしろスムーズ、スマートという言葉が似合うような演奏が増えてきているように思えます。
単にウィーン・フィルとの録音が増えてきたから、というのも理由の1つかもしれませんが、モーツァルトの「レクイエム」再録音をはじめとするウィーン・コンツェルト・ムジクスとの録音でもこの傾向がみられますので、彼自身の芸風に変化が起きていることはある程度認めざるを得ないでしょう。もちろん、聴き手としては結果が良ければそれでOKですし、「オリジナル楽器奏法」というもの自体、今や珍しくも何ともないものになりましたので、アーノンクールにはそれ以上の高みを目指してもらいたいところです。
で、今回のブルックナー5番。以前のアーノンクールのイメージをこの曲に当てはめると、せかせかした落ち着かないテンポ、金管が極端に突出したやかましい音響、といった演奏を想起してしまいますが、今のアーノンクール(とウィーン・フィル)はもはやそういったステレオタイプには陥っていません。テンポ設定に関しては極めてオーソドックス。ヴァントあたりに近い、ごく普通の進行となっています。フレージングに関しても、強い違和感を感じさせるような箇所はありませんでした。
むしろポイントとなるのは音響面で、この音が気に入るかどうかでこの演奏に対する評価は大きく異なったものとなるでしょう。弦はノン・ビブラート気味ではあるものの、ソリッドになりすぎることはなく、むしろ空間にふんわりと漂うような感触。第2楽章第2主題が提示されるところでも、歴代の名盤で感じられる重厚感や安堵感よりは、浮遊感のような不思議な軽さが感じられます。
金管セクションも、絶叫させて下品な音にしている箇所は皆無。やはり音色はやや軽めで、透明感が際だっています。それでいて品格や存在感はきっちり維持されており、このあたりはウィーン・フィルの伝統がうまい具合に作用しているように思えます。昔ながらのウィーン・フィルのブラス・サウンドとは印象を異にしているものの、かといって他のオーケストラではこうした音を出すのは困難(無機的・金属的になってしまう)なのではないでしょうか。(欲を言えば、終楽章コーダでの各声部のバランスに配慮しすぎ、トップノートが突き抜けて響かないのがちょっと物足りなくはありましたけれど…。)
木管やティンパニはオーソドックスな解釈ですが、全体の透明度が高いために、沈みがちだったパートもしっかり聴こえるのがポイントでしょう。ティンパニに関しても音色はいつものウィーン・フィルの革張りティンパニで、軽くも重くもなりすぎず常にウェルバランスをキープ。両端楽章末尾のロールでの音量操作(クレシッェンドの強調など)も地味なものです。
よく「大伽藍」に例えられるブルックナーの交響曲、この例えは特にこの5番に適用されるケースが多いと思いますが、アーノンクールの演奏は、さしずめ「総ガラス製の大伽藍」といったところでしょう。伝統的な演奏とは明らかに異なるものに仕上げつつも、「大伽藍」としてのフォルムはきっちり維持されているように思います。少なくともヘレヴェッヘの7番を初めて聴いたときのような驚きや抵抗感はありませんでした。録音も前作の9番とほぼ同傾向で、ムジークフェラインの響きと透明感を両立した優秀録音です。
「ヴァント、朝比奈亡き後、もはや本物のブルックナーを聴く機会は失われた」などという論調も一部メディア(一部評論家だけ?)でみられますが、個人的には、今年は小澤の第7と当盤によって、「透明な音響的快感」をベースにした新たなブルックナー演奏の可能性を見いだせた年でありました。「快感」などという言葉をブルックナーに適用するなど不謹慎、それはブルックナーの本質ではない、という意見もあるでしょうけれど、原理主義的なまでに過去の「ブルックナー指揮者」たちと同一のイディオムを現代の演奏家に求めるのも、あまり生産的ではないような気がします。もちろん、自分も決して過去の巨匠たちの録音を捨ててしまうわけではなく、並行して聴き続けることに変わりはないのですけれど。
なお、当盤にはボーナス盤として、リハーサル風景を収めたディスクが付いてきます。意外と地味に淡々と進むリハーサルですが、いかんせんドイツ語の分からない自分では全部を聴き通すことは厳しかったので、これは雑誌等のメディアの評を待ちたいと思います。
* RCA/82876 60749 2(SACDハイブリッド盤/マルチチャンネル対応、リハーサルを収めたボーナス盤CD付き)
* ブルックナー:交響曲第5番 変ロ長調(原典版)
* ニコラウス・アーノンクール指揮 ウィーン・フィル
* 録音:2004年6月7~14日 ウィーン、ムジークフェラインザール(ライブ)
単にウィーン・フィルとの録音が増えてきたから、というのも理由の1つかもしれませんが、モーツァルトの「レクイエム」再録音をはじめとするウィーン・コンツェルト・ムジクスとの録音でもこの傾向がみられますので、彼自身の芸風に変化が起きていることはある程度認めざるを得ないでしょう。もちろん、聴き手としては結果が良ければそれでOKですし、「オリジナル楽器奏法」というもの自体、今や珍しくも何ともないものになりましたので、アーノンクールにはそれ以上の高みを目指してもらいたいところです。
で、今回のブルックナー5番。以前のアーノンクールのイメージをこの曲に当てはめると、せかせかした落ち着かないテンポ、金管が極端に突出したやかましい音響、といった演奏を想起してしまいますが、今のアーノンクール(とウィーン・フィル)はもはやそういったステレオタイプには陥っていません。テンポ設定に関しては極めてオーソドックス。ヴァントあたりに近い、ごく普通の進行となっています。フレージングに関しても、強い違和感を感じさせるような箇所はありませんでした。
むしろポイントとなるのは音響面で、この音が気に入るかどうかでこの演奏に対する評価は大きく異なったものとなるでしょう。弦はノン・ビブラート気味ではあるものの、ソリッドになりすぎることはなく、むしろ空間にふんわりと漂うような感触。第2楽章第2主題が提示されるところでも、歴代の名盤で感じられる重厚感や安堵感よりは、浮遊感のような不思議な軽さが感じられます。
金管セクションも、絶叫させて下品な音にしている箇所は皆無。やはり音色はやや軽めで、透明感が際だっています。それでいて品格や存在感はきっちり維持されており、このあたりはウィーン・フィルの伝統がうまい具合に作用しているように思えます。昔ながらのウィーン・フィルのブラス・サウンドとは印象を異にしているものの、かといって他のオーケストラではこうした音を出すのは困難(無機的・金属的になってしまう)なのではないでしょうか。(欲を言えば、終楽章コーダでの各声部のバランスに配慮しすぎ、トップノートが突き抜けて響かないのがちょっと物足りなくはありましたけれど…。)
木管やティンパニはオーソドックスな解釈ですが、全体の透明度が高いために、沈みがちだったパートもしっかり聴こえるのがポイントでしょう。ティンパニに関しても音色はいつものウィーン・フィルの革張りティンパニで、軽くも重くもなりすぎず常にウェルバランスをキープ。両端楽章末尾のロールでの音量操作(クレシッェンドの強調など)も地味なものです。
よく「大伽藍」に例えられるブルックナーの交響曲、この例えは特にこの5番に適用されるケースが多いと思いますが、アーノンクールの演奏は、さしずめ「総ガラス製の大伽藍」といったところでしょう。伝統的な演奏とは明らかに異なるものに仕上げつつも、「大伽藍」としてのフォルムはきっちり維持されているように思います。少なくともヘレヴェッヘの7番を初めて聴いたときのような驚きや抵抗感はありませんでした。録音も前作の9番とほぼ同傾向で、ムジークフェラインの響きと透明感を両立した優秀録音です。
「ヴァント、朝比奈亡き後、もはや本物のブルックナーを聴く機会は失われた」などという論調も一部メディア(一部評論家だけ?)でみられますが、個人的には、今年は小澤の第7と当盤によって、「透明な音響的快感」をベースにした新たなブルックナー演奏の可能性を見いだせた年でありました。「快感」などという言葉をブルックナーに適用するなど不謹慎、それはブルックナーの本質ではない、という意見もあるでしょうけれど、原理主義的なまでに過去の「ブルックナー指揮者」たちと同一のイディオムを現代の演奏家に求めるのも、あまり生産的ではないような気がします。もちろん、自分も決して過去の巨匠たちの録音を捨ててしまうわけではなく、並行して聴き続けることに変わりはないのですけれど。
なお、当盤にはボーナス盤として、リハーサル風景を収めたディスクが付いてきます。意外と地味に淡々と進むリハーサルですが、いかんせんドイツ語の分からない自分では全部を聴き通すことは厳しかったので、これは雑誌等のメディアの評を待ちたいと思います。
* RCA/82876 60749 2(SACDハイブリッド盤/マルチチャンネル対応、リハーサルを収めたボーナス盤CD付き)
* ブルックナー:交響曲第5番 変ロ長調(原典版)
* ニコラウス・アーノンクール指揮 ウィーン・フィル
* 録音:2004年6月7~14日 ウィーン、ムジークフェラインザール(ライブ)
by ucc3apde
| 2004-12-20 20:34
| SACD/DVD-Audio